ドイツ語がカッコいい? カッコいいのはドイツ語だけじゃないよ!

ドイツ語はカッコいいか!?

今、「中二病で学ぶドイツ語セミナー」が申し込み殺到で大人気だだそうです。話題になっているのは、12月4日に東海大学高輪キャンパス(東京都港区)で開かれる「中二病で学ぶドイツ語 さあ、はじめよう!狂乱の宴(ガイステスフェアヴィルングスフェストマール)を!」だそうで、ドイツ語のカッコ良さを前面に出した会の模様です。
ドイツ語の語彙に厨二病心をくすぐるワードがたくさんあることは知っていましたが、それを前面に押し出した広告手法に「この発想は無かった!」と頭を殴られたような衝撃を受けました。うん、面白いと思います。

さて、ドイツ語は実際カッコいいのか、という話ですが、実際問題カッコいい単語が多いです。私は大学で第二外国語としてドイツ語を学びましたが、辞書を眺めると2ページに1単語ぐらいはニヤニヤしたくなる単語が並んでいるものでした。ドイツ語を使いこなせる程熟達はしておりませんが、ドイツ語の素晴らしさを知るには十分でした。
有名な言葉としては、ゲーテの疾風怒涛=シュトルム・ウント・ドランクあたりが挙げられるでしょう。疾風怒濤という訳も秀逸ですが、このシュトルム・ウント・ドランクというワードに心踊らない人はむしろ少数派なのではないでしょうか?
こうしたイカしたドイツ語は創作物の世界でもさり気なく使われており、ツヴァイ◯◯とか(ツヴァイはドイツ語で2)、◯◯マイスター(マイスターはドイツ語で職人)とか、この辺りはよく聞く単語なのではないでしょうか。


何故英語ではなくドイツ語?

さて、創作物の世界とは往々にして非日常を楽しむものという位置づけであることが多いです。非日常を表すため、見慣れない言葉を採用するということで外国語の利用が盛んに行われました。最も良く使われたのは英語でしょう。
ドラゴンクエスト、ファイナルファンタジー共に最も有名なRPGの筆頭ですが、そのタイトル名は英語です。
特にファイナルファンタジーに関してはその中で使われるワードも、英語を基調とした単語が多いです。魔法はファイア、ブリザド、サンダーと全て英語ですし、武器の名前も◯◯ソードなど英語が多いですよね。(一方、ドラクエは最初の方は英語が驚く程少なく、造語が多いです。ほぼ完全な造語を多用して独自の世界観を築いた言語センスには脱帽の一言です。でも新作になるにつれてネタ切れか英語基調の言葉が増えてきていますね。)
もちろん、ドラクエやFFに限らず、様々な、ゲーム、アニメ、漫画、小説…etcで様々な言葉が使われてきました。その中で最も利用された言葉は英語だと言えるでしょう。
英語は日本では誰しもが中等教育までに習うものになりました。そのおかげもあり、最も親しみのある外国語となっています。このため、頻出ワードには英語を使って非日常を醸し出しながらも入りやすい雰囲気を作るということは少なくありません。
ただ、そのように英語は最もよく使われる言語となったが故に、まだあまり使われていないカッコいい言葉が枯渇してきているという問題が発生しています。
私が中学生の頃はまだインフィニティ=無限、カタストロフ=破滅、インフェルノ=焦熱地獄 あたりのワードはほぼ手付かずの状態だったのですが、それも今や昔。インフェルヌスデーモンなどと冠言葉として使われていたり、インフィニット・ストラトスなどと作品のタイトルに出てきたり、カタストロフィーに至っては創作物どころか経済の記事を読んでいても出てくる始末。
よく目にする言葉には特別感がないので、特別カッコ良くする必要のあるラスボス級の必殺技・最終奥義などではもう使えないわけです。ラスボスの最終奥義がサンダーボルトでは興醒めもいいところです。英語で特別感を演出するには一工夫必要なのですね。

そこで出てくるのがドイツ語です。ちょいちょい使われる頻度は増えてきますが、まだまだあまり使われていない単語が存在しています。例えば、ドイツ語で世界のことをヴェルトと表現しますが、◯◯ヴェルトという表現にはまだまだ厨二病心をくすぐる力が残っていると言えるでしょう。(◯◯ワールドという言葉が醸し出す雰囲気と比較してみると圧差だと感じられるでしょう。)
また、シュトルム◯◯みたいな風属性の高位攻撃は支持を得やすいでしょう。
個人的には真理=ヴァールハイトという言葉がお気に入りで、いつこの言葉を上手く使った表現が自分の前に出てくるかワクワクしています。


カッコいい言葉の見本市としてのBLEACH

さて、カッコいい言葉を使うというのはファンタジー物、バトル物においてはほぼマストと言える要件になってくるわけですが、言葉のセンスという話をするにおいて、BLEACHについて語らないのはいささか食後不良感のある語りであると言えるでしょう。
BLEACHにおいては、いくつかの勢力が存在するのですが、代表的な3つの勢力に、死神、破面(アランカル)、滅却師(クインシー)というものがあります。これらのそれぞれに対して技や能力の名前が存在しているのですが、死神は日本語、破面(アランカル)はスペイン語、滅却師(クインシー)はドイツ語によってそれぞれが名付けられています。
最近になって、「実は日本語ってカッコいいんじゃね?」というムーブメントが割とメジャーになってきていますが、BLEACHはそのさきがけとなった作品の一つとも言えるでしょう。
最も美しい言葉の一つとして、死神である朽木白哉の斬魄刀である「千本桜」が挙げられるでしょう。元々、義経千本桜という人形浄瑠璃のタイトルが存在しますので、BLEACHが初出というワードではないのですが、現代の一般人が知る語彙の中に千本桜というワードを復活させたのはBLEACHということは間違いないでしょう。乱れ散る桜の花びらに見立てた無数の刃は使用者が醸す雰囲気と相俟って読者に鮮烈な印象を与えました。
他にも金色疋殺地蔵(こんじきあしそぎじぞう)とか、黒縄天譴明王(こくじょうてんげんみょうおう)とか、見るからにすごヤバそうな言葉も満載です。シンプルな日本語の美しさと仰々しい日本語の悍ましさとの対比を利用して言葉の見本市としてだけでも眼を見張る素晴らしい出来栄えとなっています。
また、スペイン語というかなり聞き慣れない言葉を使うという意欲的な取り組みも行いました。破面(アランカル)の第二形態を表す帰刃(レスレクシオン)=スペイン語で復活の意とか、上位の10名を表す十刃(エスパーダ)=スペイン語で刀剣の意とかはネーミングとして非常にカッコ良かったと思います。レスレクシオン辺りは「覚えられない」という苦情が殺到していましたが、私は好きです(ぁ
ですが、この章の最高潮で出てきた雷霆の槍(ランサ・デル・レランパーゴ)というワードに関しては個人的には頂けないと感じています。理由ですが、流石に覚えにくすぎますよね。頑張って覚えても他の人に「それ、何だっけ?」と言われるレベルで覚えられない単語というのはネーミングとしてはどうだろう、と。何となく凄そうな感じが出ているところは良いと思うのですが、技の名前は会話の中で「あの名前秀逸だったよねー」とか語られることによって価値を増すと思うのです。
そんなBLEACHが終章の敵として採用したのは滅却師(クインシー)なわけですが、ここで万を持して登場したのがドイツ語なわけです。流石、解ってらっしゃるというべきか。
最終決戦の舞台は真世界城(ヴァールヴェルト)、滅却師(クインシー)が用いる術の名称は聖唱(キルヒエンリート)。その聖唱(キルヒエンリート)としての聖域礼賛(ザンクト・ツヴィンガー)、簒奪聖壇 (ザンクト・アルタール)。

もう、ね。天才かと。

いや、まぁ天才なんでしょうけど、この「声に出して読みたいドイツ語」感の半端無さ。聖唱(キルヒエンリート)って連呼してるだけで幸せになれそうなレベル。
カッコいい言葉を使っている作品は世に数多とあるでしょうが、ここまで系統立てて言葉を使い、かつそれらのクォリティが非常に高いという意味で、ネーミングについて考える際にはBLEACHはやはり外せないでしょう。BLEACHのネーミングに関して考察するだけで論文が一つ書けるレベル。


次世代の厨二病を背負う言語としてのラテン語、アラビア語

さて、日本語素晴らしい、スペイン語もなかなか、という感じですが、ドイツ語は流石の貫禄といった感じです。
ですが、まだほとんどスターダムには出てきていないものの素晴らしい語彙がわんさかある言葉として、個人的にはラテン語とアラビア語を推しています。
ラテン語はメジャーどころだと哲学用語などがありますが、我考える故に我あり(コギト・エルゴ・スム)とか、死を忘れるな(メメント・モリ)とか。「デカルトのコギトから演繹して考えると…」なんて言葉を口にするだけで気分はもう一端のインテリ。厨二病心はMAXまで満たされること間違いなしです。
ラテン語と近しい印象を受ける言葉として、ギリシャ語やローマ語があるように感じていますが、要するに哲学ワード群とでも言えば良いでしょうか。この辺りは厨二病からすれば宝物庫のようなものです。
この前、遊戯王5D'sで突如アポリア(哲学用語で難題の意)なんて名前のボスキャラが出てきて吹きそうになりましたが、まだまだ哲学用語は上手くネーミングに活かされ切っておらず、ブルーオーシャン感が半端ないです。
また、アラビア語もあまり使われていない言葉で強い響きの言葉が多いです。聖戦(ジハード)などは、政治的な意味合いで使われることが増えてしまい、扱いにくいワードとなってしまいましたが、インドラとかヴァジュラとかもアラビア語の単語になってきます。あまりにも聞き慣れない言葉が多すぎて、扱いは難しいのですが、強そう感が半端ない言葉が多く、使いこなすと新しい言葉の地平が開けそうです。


ネーミングの素晴らしさは何によって定義されるか

さて、ここまで様々なカッコいい言葉について話をしてきました。単純に単語としてカッコいいかどうかというのも重要な話なのですが、単語とネーミングとを切り離して考えるといのは些か片手落ちに過ぎる感があります。ことネーミングとして素晴らしいかとなれば、必ずしも単語そのものの力によるものではないことがあります。
個人的には、厨二病心を擽られる表現として重要な要素として、下記の4つがあるとかんがえています。

・言葉の響きとしてのカッコ良いこと
・場にふさわしい意味があること
・覚えやすい言葉であること
・似たような状況で聞いたことの無い表現であること

言葉の響きとしてカッコ良いことが重要なのは当然自明です。シリアスな作品で世界を滅亡に導く裁きの光に「チワワ」なんて命名をしようものなら暴動ものです。(意味としても不適切ですが)
また、聞いたその場で重要になるとは限りませんが、その言葉の素晴らしさを深めるためには意味が合致することは必須です。例えば、深淵地獄のネーミングとしてどんなに素晴らしい語感の言葉であったとしても、意味を調べて見ると「シャム猫」とかそんな意味になってしまうようなものを選んでしまうとぶち壊しですよね。以後、作品に素直にのめり込めなくなること必定です。
覚えやすさも、その後の語りを支える上で重要でしょう。それ故にシンプルな言葉は鮮烈だったりもするわけです。基本的に長過ぎる言葉や、あまりにも珍しい響きの単語というのは、ネーミングとして微妙になりやすいと考えられます。
最後の「似たような状況で聞いたことの無い表現であること」というのが重要で、だからこそ英語ではなくドイツ語などのまだ枯れてない単語が便利になってくるんですね。単純な語感としてならインフィニティとかいい線行ってると思うのですが、余程上手く使わなければラスボスの最終奥義がインフィニティ◯◯では二流感が否めないです。
とはいえ、新奇性のある単語を使わないと駄目かというと必ずしもそんなことはなくて、その文脈で使われていない言葉であれば日常的なワードだからこそ震撼するようなこともありますし、よくある単語同士を掛け合わせたものなのに「それしかあり得ない」と感じる程素晴らしいネーミングになったりもするわけです。
よくある単語同士を掛けあわせて「それしかあり得ない」と感じた例としては、月姫の空想具現化(マーブル・ファンタズム)が挙げられます。
空想も具現化も比較的日常的なワードです。また、マーブル(英語で大理石の意)という言葉はマーブルチョコのイメージが強く、厨二病的な世界観においてはあまり出くわすことが無いワードでしょう。ファンタズムも幻想を意味する英語で、そこそこ強い言葉ではあるものの、かなり使い古された感のあるワードです。
これらの比較的「弱い」言葉が組み合わされることにより、空想具現化(マーブル・ファンタズム)となるわけです。
自己の意思を世界と直結させ、範囲は局所的ながら因果に干渉して、その望む空間になる確率を意図的に取捨選択し、世界を思い描く通りの環境に変貌させる。空想から取捨選択した「もの」を大理石の持つ冷ややかで人工物のようなイメージと重ね合わせることによって虚無にも似た響きをもたらします。これが、世界観と得も言えぬようなエンゲージを果たすわけです。

あなたは神か…!

これに限らず、TYPE-MOONの表現には眼を見張るものが多く、恐らく厨二病界隈でTYPE-MOONの表現を知らなければ壮絶なdisの洗礼を浴びせかけられること必定なわけですが。
このように本当に素晴らしいと感じるネーミングは、必ずしも珍しい言葉によって起こるものとは限らず、むしろよく使うワードに対して美しい意味付けと、想定していない組み合わせを行うことによって生み出されたりするものであったりもします。(BLEACHの千本桜なんかもそうですよね。)
以上、厨二病を語るなら、ドイツ語も最高だけど、敢えて強い言葉を使わない表現も最高なんだよって話でした。


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